第65章 記憶と思い出*緑間
「優ちゃんの記憶が無くても、オレたちと一緒にいたって事実は変わらないもんな。」
高尾が吹っ切れたように笑う。
その顔を見て気がついた。
先ほど自分の中に重くのしかかっていた黒い不安は、いつの間にか和らいでいたことを。
「ああ。」
「色々やらかしたこともあるけど…それでも優ちゃんがオレたちといることを望んでくれた。」
「そうだな。」
「だったらオレたちは優ちゃんにその気持ちを…思い出すのは無理かもしんねぇけど、持ってもらうことはきっとできるよな?」
「その気持ちを思い出せれば、記憶も戻る可能性があるかもしれないのだよ。」
記憶喪失なんて想像もつかない。
大切なものの記憶が無くなるとはどんな恐怖なのだろうか。
だから。
その恐怖を和らげ、元の記憶の鱗片を思い出してもらい、これからを助けることが俺たちに必要なことだろう。
儚い記憶は、一生忘れない思い出になる。
この日々も忘れられない思い出になるのだろうか?
この記憶を俺は何度も思い出すのだろうか?
そして。
茶倉にとって俺たちとの日々は思い出になるのだろうか?
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「三波。」
放課後、三波に会った俺は声をかけた。
「今日の放送、良かったのだよ。」
彼女は一瞬驚いた後、笑顔を浮かべた。
「聞いててくれたんだ。そう言ってもらえるなんて思ってなかったから…ありがと。」
三波の柔らかな微笑みは、茶倉のそれとなんとなく似ている気がした。