第65章 記憶と思い出*緑間
『続いて、‘先生のお言葉’です。今日有り難いお話をしてくださったのは杉野先生です。
ーー無常観、皆さんご存知の通り平家物語のテーマですね。世の中のもので常に同じで有り続けるものなんてない。
ですがそれでも変わらないものってあると思うんです。
それは思い出。この学校で沢山の思い出を皆さんに作ってもらいたいと願っています。ーー
さすが古典の先生ですね。ありがとうございます!』
俺たちは何をするわけでもなく、その放送に耳を傾けていた。
頭の中は色々なことでぐちゃぐちゃなはずだが、内容はよく入ってきた。
『えと……ここからは私の考えで恐縮ですが。
記憶って儚いなって思うんです。テストの暗記然り…!
なんて冗談は置いておいて。
儚くても。
たとえ全ての記憶を失ったとしても!
周りの人が覚えていれば、その記憶は共有できるって信じてます。
そして記憶を何度も思い出すことが……それが本当に思い出になるって思うんです。
そして思い出は何があっても忘れない。』
「「…っ!」」
俺たちは息をのんだ。
同級生の言うこの言葉は、今の俺たちに向けた言葉だろうかと思ってしまう。
それだけその言葉は俺の、恐らく高尾の心にも響いた。
『楽しい記憶はやがて幸せな思い出になるって私は思います。
…なんて、今日はちょっと真面目に話させていただきました!
では次のコーナーに行きましょう!続いては……』
「なあ真ちゃん。」
ずっと黙っていた高尾が口を開いた。