第65章 記憶と思い出*緑間
「まさか優ちゃん…」
高尾も同じことを考えているようだった。
そうと決まったわけではない。
確定している訳がない。
そんな根拠もない。
でも心にある気持ちは不安以外の何物でもなかった。
無意識的に決めつけているのかもしれない。
…茶倉が再び記憶を失ったことを。
「優ちゃん、記憶を失ったのかよ…」
高尾が自分の考えを否定してくれることを望んだが、答えは同じだった。
『あっというまの三年間だから将来のことをしっかり考えなさい。』
教師の声がふと脳内に響く。
これからのことなど考えたくない。
考える余裕なんてない。
現実的には三年間なんてあっという間かもしれない。
実際、日本人平均寿命は男性80歳、女性86歳といったところだ。
割合でいえば3.5%くらい。
そんなの知っている。
それでも何年もの期間が過ぎたかのように感じてしまうのは何故だろうか。
時間の密度が濃すぎるのだよ。
今を考えるだけで限界だ。
今を精一杯生きるしかできない。
「そんなはずないのだよ。」
その言葉を誰に向けたのか。
慰めにもならないとわかっているそれに自嘲的な笑みを浮かべた。