第64章 知らされる過去*茶倉
ーーーーーーーーーーーーーー
目の前で起きたことが信じられなかった。
車が少女に向かって走る。
このままではぶつかってしまうだろう。
「ー!」
少女の名を叫ぶ。
でも彼女は動くことが出来ない。
僕の体は動いた。
自分でも驚くくらい無意識に。
キキィーっ!
あたりにブレーキ音が響き、数瞬後に体に痛みが走る。
「ー!ーー!」
少女が声を上げるが届かない。
もうすぐ死ぬのだろうなと直感で悟った。
「人を愛して…人を助けられる人間になってくれ…」
薄れゆく意識の中、僕の口からは確かにそう言った。
自分でもわからなかった。
それでも今、やっとわかった気がする。
僕はこの子と里緒をやはり重ねていたのだろう。
今助けたのも罪悪感からかもしれない。
だが、それだけじゃなかったって気がついた。
僕はこの子を含め、人というものが好きだった。
だから人の心を写す空という存在が好きだったのだろう。
そして人を撮れなくなってからも空を写し続けたのだろう。
写真だって皆が喜んでくれるからという理由もある。
事故の後、人と関わることを避けていたが、心の奥ではそうだったと思える。
(だから、最期にこの子に託したんだろう。)
押し付けがましいとは思うが、僕が出来なかったことを叶えて欲しい。
最期に見た空は雲一つない青空だった。
ーーーーーーーーーーーーーーー