第64章 知らされる過去*茶倉
千秋が置いていった本に目を向ける。
『天空華』
『篠塚 亮』
綺麗な空と雲の写真を背景に、その背景に溶け込むようにタイトルと著者名が書かれていた。
(この名前どこかで…?)
なにか思い出しそうだけど、靄がかかったように思考がはっきりしない。
思い出せたのは、私が昔この人の本を読んだことがあるかもしれないという曖昧なことだった。
それでも。
私にこの本に興味を持たせるには十分だった。
パラリとページをめくる。
『空は本性。人に性格を与える。』
『雲は感情。人に心を与える。』
『本性や感情が十人十色のように、空も雲も見方は人それぞれだ。』
『だが人に見えるものは雲である。空は雲の合間でしか見えない。』
『僕はこう考える。』
『雲は天空に咲く華であると。』
『雲の彩りで空も美しく輝くと。』
(え…っ!?)
そこまで読んで驚いて本を閉じた。
ー「俺は、雲は空を彩る華だと思うんだ。」
言葉が、声が、私の心に響く。
(そうだ。)
この言葉が私に空を好きにさせてくれたんだ。
窓の外を見ると、今にも雨が降りそうな天気だった。