第7章 伝えたいキモチ〔千〕
弥澪はとっくに帰っているだろうし、今終わったと伝えても意味はないだろう。
また返事が帰ってきたら正式に謝ろうと思い、帰り支度を済ませて関係者の出入り口から出た時だった。
「なんで……?」
少し離れた植木の横に、弥澪が立っていた。
携帯を胸の前に握りしめて時折大きく息を吐きながら、彼女はそこに立っている。
途端、弥澪が小さなくしゃみをした。
僕は自分がしていたマフラーを取ると、荷物を漁り始めた彼女の首に巻きつける。
「千さん!」
「君、どうしてここにいるの?」
「あ、いえ……千さんから返事が帰ってこなかったのでどうしようかと思ったんですが、少しだけでもお話したくて」
「だったらどこかお店にでも入っていれば良かったのに。こんなところに何時間もいたら風邪ひくよ」
「もしすれ違いになったら嫌だったので……」
「それぐらいメールでもなんでも、何とかなるでしょ」
「っ!そう、でしたね……」
気を落としてしまった彼女の手を取ると、冷たい空気に晒されて続けて冷え切っていた。
見れば肩は震えているし、寒さに唇が青くなりかけている。
本当にずっと待ち続けていたのだと分かり、僕は思わず彼女を抱きしめていた。
「あの、千、さん?」
少しでも彼女が温まるように、少しでも心が安らぐように、そう思いながら僕はしばらくの間、弥澪を抱きしめ続けていたのだった。
カップから口を離した弥澪がほぅ、と息をついた。
体が温まったのか、彼女の頬はさっきよりも血色が良くなっている。
2、3分ほど抱きしめ続けた後、弥澪が弱々しく僕を呼んだことで、僕自身もその状況に改めて気づいて腕を解いた。