第7章 伝えたいキモチ〔千〕
別の意味で体温が上がりかけ、彼女の頬はわずかに染まっていた。
とりあえず僕は誤魔化すように彼女を近くのレストランへと誘い、待たせたお詫びとして温かいものをご馳走した。
「あの、ありがとうございます」
「いいや、僕の方こそ待たせて悪かったと思うよ」
「お仕事、何かあったんですか?」
「機材の調子が悪かったり、ミスが起きたりしてたんだ。楽屋に戻っても良かったんだろうけど、色々事情があって……」
すると弥澪は気にしないでくださいと微笑んだ。
いつもの優しい笑顔だった。
色々とこみ上げてくるものを堪えて会計をすませ、お店を出ると弥澪が服の裾を引っ張ってきた。
「あの……もう少しだけ一緒いたい、です……」
「っ……」
「駄目、ですか……?」
頬を染めて僕を見上げる弥澪に僕は耐えられず、ついに彼女の手を取って早足で歩き出した。
突然のことに弥澪は困惑した様子で引っ張られながらも、握った僕の手に力を込めた。
やがてひと気のない場所までやってくると彼女の手を離し、振り返りざまにきつく抱きしめた。
「ごめん、もう駄目だ。嘘をつき続けるなんて出来ない」
「千さん、私に何か嘘をついていたんですか?」
「違う。君には何も偽っていないよ。僕の心に嘘をつきたくないってことだ」
「……」
「だって僕は……」
「言わないでください」