第7章 伝えたいキモチ〔千〕
弥澪が僕の言葉を止めて体を離した。その表情はとても穏やかなものだった。
「分かっていたんです。全部。千さんが私を、そう思ってくれていることは、ずっと前から知っていたんです」
「モモがそう言ったのか?」
「それもありますけど……そうでなければ私の会いたい我儘に付き合ってくれるわけがありません。ただのファンなら、余計な関わりなんてないはずです」
「初めて会った時のお礼の一部だとは?」
「思いません。だって、バンさん居なくなっちゃったじゃないですか」
「……」
「……だから私から言わせてください」
弥澪が両手を握り締めながら真剣な顔で告げた。
「あなたのことが大好きです。千さん。ファンになった時からずっと、あなたのことを想っていました」
そっと手を伸ばして彼女の頬に触れると、弥澪がその上に手を重ねてきた。
僕は少し躊躇った後、彼女を引き寄せてその唇に口づけた。
顔を離すと弥澪の瞳には涙が浮かんでいた。
それでも浮かべる微笑みはとても美しく、愛おしかった。
もう一度口づけると、弥澪の顔が一気に真っ赤になる。
「……あ、あの、千さん。そう何度もされると……その、恥ずかしいです……」
「僕は足りないぐらいなんだけど。今まで我慢して居た分、君が欲しい」
「また今度じゃ駄目ですか……?」
「駄目。今がいい」
「千さん、子供みたいですよ……」
「その千さんってのもやめない?千って呼んでよ」
「……千……」
「……」
「……さん……」
だいぶ間が空いてから、そう付け足した弥澪。
思わず笑いだしてしまって、再び弥澪の顔が赤くなる。
そんな彼女が可愛すぎて、僕はまた口づけてしまうのだった。
〜終わり〜