第7章 伝えたいキモチ〔千〕
やってきたオフの日。
僕は弥澪と一緒に街の中を歩いていた。
何かどこかに行く目的もないけれど、彼女は僕と一緒に歩きたいと言った。
時々気になったお店を覗いたりしながらぶらぶら歩いていると、ふとあるお店が目についた。
「弥澪」
少し前を歩いていた彼女を呼び止め、そのまま腕を引っ張る。
すると弥澪はきょとんとした顔でこちらを振り返った。
そのまま僕の指差す場所へ目を移すと、にっこりと微笑んだ。
「私、甘いもの大好きなんです。少し寄ってもいいですか?」
まるで僕の心の中を読み取って代わりに言われたような言葉に、驚きながらも頷く。
その後弥澪は嬉しそうにお店の中へと足を踏み入れた。
僕が見つけたのはチョコレートのお店だった。
中はチョコレートの香りであふれ、よく分からないけれど沢山の種類のチョコが並んでいる。
弥澪は目を輝かせながらも慎重に選んでいるようで、その姿を見てつい笑ってしまったのは、彼女には内緒である。
「つい沢山買い過ぎちゃいました。友人に分けて食べようと思います」
お店を出た後、僕たちは近くの公園にやってきた。
平日の昼間だからなのか、人はそれほど多くなかった。
「はい、千さんも食べますか?」
ベンチに腰掛けた弥澪は小さくて宝石のように輝くチョコを差し出してくる。
そっとそれを口に含むと、濃いチョコとほのかなオレンジの味が広がった。
「甘い……」
「ふふっ、チョコですからね」
笑いかけてくる笑顔が愛しかった。
彼女自身が愛おしかった。
この想いを伝えてしまいたい。
伝えないままでいるのは苦しいと、僕の心が悲鳴を上げている。