第7章 伝えたいキモチ〔千〕
「……千さん」
「なにっ、かな!?」
突然沈黙を破るようにして名前を呼ばれ、思わず声が裏返ってしまう。
けれど弥澪は気づかなかったのか、それとも気づいていないふりをしてくれたのか、特にそれに対して不思議がるような反応をしてはこなかった。
「会いに行きましょうか?」
「……へっ?」
「嫌、ですか?」
少し尻込んだような声で尋ねられてしまい、思わず本音を漏らしかけてしまいそうになる。
「嫌じゃないけど……」
「けど?」
「何で突然?」
「……私の我儘です……」
本当にこの人は僕を無意識に煽ってくる。
そんなことを言われたら駄目とは言えない。
どうしようかと迷っていると、モモが勢いよく扉をあけて戻ってきた。
その声が届いたのか、弥澪がくすりと笑うのが分かった。
「百さん、相変わらずですね。何だか可愛いです」
「そうだね。僕もモモが可愛くてしょうがないよ」
「千さんも時々可愛いところがありますけど」
「……僕、そんなに可愛い人じゃないけど」
「ふふっ、私から見れば可愛いところがたくさんありますよ」
そんなことを言う君の方が可愛い。
どこかで聞いたことあるような台詞が頭をよぎるが、さすがに口にするのは躊躇われ、僕は口をつぐんでしまった。
「何々?誰と話してるの?」
モモが顔を近づけてきたのでスピーカーに切り替えると、弥澪は彼女らしくわざわざ挨拶をモモに向けた。
「お久しぶりです、百さん。それとお仕事お疲れ様です」
「弥澪じゃん!何?ユキにデートのお誘い?」
「モモっ!?」