第7章 伝えたいキモチ〔千〕
僕が彼女を初めて見たのは、バンが大怪我をしたその日だった。
まだインディーズだったRe:valeのライブに彼女は来ていた。
一番後ろの隅っこで慣れない様子で人々に混ざっていた。
特に目立つわけでもなかったのだけれど、僕の目は自然と彼女に惹きつけられていた。
その時はただそれだけだと思っていた。
だけどそれだけで終わる運命ではなかった。
ライブの最中に大怪我をしたバンの手当てをしたのは彼女だったのだ。
「私、一応看護学校に通っていますから」
そう言って彼女は救急車が来るまでの間、絶えずバンに声を掛け続け、応急処置の手を休めなかった。
そんな彼女の姿が美しく、僕は心を奪われてしまった。
「千さん、お仕事は終わったんですか?」
「ついさっき終わったよ。モモが今マネージャーに呼ばれているから、待っている間に少し声を聞こうかなって思って」
初めて会った日から約二年。
僕と弥澪はよく連絡を取り合っていた。
弥澪は専門の看護学校の寮に入っているし、僕は仕事が忙しいから中々会うことが出来ずにはいた。
そして僕の一方的な片思いも続いている。
彼女は僕のことをいつになっても『千さん』と呼ぶし、敬語もやめようとしない。
そういった面であまり親近感がなくて心が痛む。
「今度の日曜がオフになったんだ。久しぶりにゆっくり休めるよ」
「本当?良かったですね」
「……」
「……」
『会いたい』と言いたかった。
我儘なのは分かっている。
でも愛しいという気持ちに嘘はつけない。