第6章 ★笑顔の作り方〔天〕
前はよく陸の耳掃除をしていたことがあったから、これぐらいのことは得意だと思っている。
だから迷いなく手を動かす。
だけど過去は過去、今は今。
「っ!」
弥澪が顔をしかめて耳の横を押さえた。
ボクはそれに構わず続ける。
久しぶりだからか上手くいかない。
思い切り下手というわけではないけれど、以前より腕は落ちていると思う。
―――天、痛い
結局ほとんど耳掃除をすることなく、弥澪は起き上がった。
さっきの痛みが気になるのか、時折耳をさすりながら愚痴をこぼしてきた。
―――天、下手、絶対私の方が上手
「陸にしてたころはもっと上手だったんだよ」
―――下手
「最近は全然していなかったから、腕が落ちただけで」
―――痛い
「……あのさ」
腕を掴んで真っ直ぐにその目を見つめる。
すると案の定弥澪は視線を逸らした。
ボクを直視できないなんてあんな可愛いことを言っているけれど、ボクだって弥澪の顔をまじまじと見つめるのは難しい。
いや、そんなことより。
「下手とか文句言い過ぎ。本気で怒るよ?」
すると弥澪の手ではなく口が動いた。
最初はそれがなにを言ったのか分からなかったけれど、少し考えると案外分かりやすい答えだった。
ーーーだって痛いから
"だって"
弥澪の口癖だ。
なにか反論しようとするとき、いつも"だって"を使う。
けれど、だってもへったくれもない。