第6章 ★笑顔の作り方〔天〕
ーーー心は、嘘つきだから
ーーーだったら嘘でも初めから
「騙している方がいい……か……」
そんなこと思うなんて馬鹿げている。
と、普通なら誰だって思う。でもボクはそう思わない。
確かに人を騙してなにになるのかと尋ねられても答えることなんてできない。
それでも嘘をつかなければやっていけないことだってある。
「ボクと君は似た者同士だね」
そう口にした言葉は彼女はもとい、自分自身に言ったようなものだった。
ーーー天
弥澪がボクの名前を呼んだ。
どうやら何度も呼んでいたらしく、やけに膝の辺りがくすぐったかった。
ーーー天、痛い
「ごめん、少しだけ我慢して。耳掃除なんて久しぶりだから」
そう言うと弥澪は膝に触れていた手を離した。
それでもボクのする耳掃除に時折肩を強張らせることがあり、痛いと主張する回数が多い。
小さい頃は何度も陸の耳掃除をしていたものだから慣れていたのだけれど、ここ十年ぐらい誰の耳も掃除したことがなかったから結構苦労する。
そもそもこんな状態になっているのは、彼女の持ちかけた賭けが理由だった。
ーーー天、耳掃除させて
「は?」
ボクの部屋にやって来ていた弥澪の頼みに、ボクは素っ頓狂な返事をしてしまった。
ーーー兄さんが、耳かきを、買ってきたのだけど、やっぱりいらないって
「耳かき……?」
弥澪には一人兄がいる。
彼は弥澪より六つも年上ですでに成人しているが、時折どうでもいいようなものを買ってくる癖があるらしい。
それを弥澪がもらっているらしく、よくボクのところに持ってくることが多い。