第6章 ★笑顔の作り方〔天〕
それが本当に安全かどうかは別問題として、こんな弱々しい体のどこにそんな精神力があるのだろうか。
笑顔は疲れると、ボク自身も実感している。
ステージの上で見せる笑顔が嘘だというわけではないけれど、必要のない場所でにこやかにいるのはだいぶ面倒。
ーーー私はもう平気、慣れたから
慣れたとか慣れてないとか、そういうことじゃないのに。
ひとりで家の中に閉じこもって他人との接触を避けるあまり、それが当たり前だと彼女は認識してしまっている。
だからこうしてボクが外に連れ出してあげているというのに。
なにも分かっていない。
ボクの思いをすべて無駄にするかのように弥澪は笑った。
どうしてそんなに強気でいられるのか。
いや、多分強気なんじゃない。
強がっているだけなんだ。
本当は他人と関わるのが苦手で、滅多に人と会うことをしない。
そんな日々を過ごしてきた分、彼女はボクや楽、龍以外に対しては引き腰だ。
何度か芸能関係者と会話(弥澪は筆談で)をしたことはあるけれど、「はい」とか「そうですね」などの相槌程度ばかりだった。
それでも弥澪は人前では精一杯の笑顔を見せる。
嘘の笑顔であっても本当のものであっても。
決して僕みたいな理由でそうしているわけでもないと分かってはいるのに、ボクが弥澪に会うたびに見せられる笑顔が苦しくて仕方ない。
周りからしてみれば彼女のそれが作り物とは思わないのだろうけど、意味を知っている人からすれば人形のように見える。
「君は心から笑うことを知らないんだね」