第6章 ★笑顔の作り方〔天〕
「弥澪っていつもにこにこしているけど、そうやってて疲れないの?」
あるオフの日、ボクは弥澪をつれて公園にやってきていた。
昨日の昨日までツアーで疲れていたけれど、いつも家の中に籠りっぱなしの彼女を放って置くわけにもいかず、少しでも人前に出てもらおうと誘った。
その中でふと思ったことをそう口にしたボクの手を取り、弥澪はその綺麗な指で手のひらに文字を書いた。
「……ボクのほうがいつもにこにこしてるって?あれは営業スマイルだよ。プライベートじゃそんなに笑わないでしょ?」
ーーー私と、なにが違うの?
「君はボクの前でもいつだって笑顔だよ。でもそれって心から本当に笑ってるのかなって思っただけ。なにをされてもずっとにこにこしているだけで、君は怒りも泣きもしない」
ーーー笑顔、簡単だから
その意味はすぐに分かった。
人前で仏頂面しているより、愛想よくしておいたほうが楽。
実際ボクもそうだ。
ファンの前で笑顔を見せて、それが終わればオフに切り替える。
楽や龍はあまりそれをよく思っていないみたいだけと、ボク自身、それに対した差はないと思っている。
笑顔なんていくらでも作れるし、それを自分の意思でどうこうしようが構わない。
ーーー私の笑顔、変?
「そんなことないよ。でもどうして怒らないのかなって。怒り方を知らないわけじゃないよね?」
ーーー怒っても、無駄だから
ーーー泣いても、無駄だから
ーーーだから、笑うの
無駄とかどうとか、弥澪には相当な問題なんだろう。
怒っても泣いても、声帯のない彼女では感情を上手く伝えられない。
伝えられないのならば伝えなければいい。
うまくやれば厄介ごとに関わる必要も巻き込まれる心配もない、と、弥澪は言う。