第5章 夫婦漫才とハロウィン〔百〕
本当に弥澪は人前に出るのが嫌いだ。
無理を言って何度か出てもらったことはあるけど、終わると顔を真っ赤にして泣きつくようにオレにしがみついてくる。
ノリも良くて明るい弥澪がどうしてこんなに嫌がるのか、オレはよく知っている。
小学生の頃、街中で受けたインタビューがテレビで流れたことがあったのだけれど、偶然遊んでいた男友達がテレビに映っていた弥澪をからかい始めたのが原因だった。
彼らは『容疑者!容疑者だ!』とか言ってテレビの中の弥澪をの目元を覆ったりした。
多分弥澪を侮辱したくてそんなことをしたわけではない。
俗にいう『好きな相手には意地悪したくなる』とかそんなやつなんだと思う。
でも弥澪はそれを真に受けてしまい、最初は反論していたものの、ついには泣き出してしまった。
その場にいた男子たちに心を開かなくなり、それ以降人前で何かをすることがトラウマになってしまったのだ。
「惨めだってのはよく分かってる。でもモモが一緒だからまだ我慢出来るけど、一人になるのは絶対に嫌」
「モモも甘やかしすぎなんだよ。少しは世間慣れしておかないと、弥澪も後々大変だよ」
「私は世間慣れしていないわけじゃないの。ただ大勢の前であれこれするのが嫌いなだけ。必要なら意地でもやってやるもの」
「じゃあ芸能活動も意地でやってみたら?」
「それだけは絶対に嫌」
「君も頑固だね」
「それはユキも同じでしょ?」
「もしかしてユキと弥澪、喧嘩してる?」
「「してないよ」」