第5章 夫婦漫才とハロウィン〔百〕
理由を尋ねてもまともな理由は返ってこなかった。
いつも返ってくるのは、
『モモの楽しいことは私の楽しいことなの。何よりモモが幸せそうにしてるのが、私は凄く嬉しいんだから』
という答えだけだった。
「たっだいまー!」
勢いよく扉を開けると弥澪の返事が……返ってこなかった。
後から部屋に入ってきたユキが不思議そうに周りを見回し、隅っこに座り込んでいる人影を指差した。
そこに弥澪は体育座りの状態で眠り込んでいた。
その格好はあからさまに魔女の衣装で、頭には少し大きめの帽子を被っている。
「僕らを驚かそうとしてたのかな。弥澪らしいね」
「わざわざこれ着て?全然驚かないと思うけど」
「今日は何の日か考えてみなよ」
「今日?…………そっか、ハロウィンだ!」
仮装してオレとユキを待ち構えているうちに寝ちゃったんだろう。
それにしても見事な体育座りで寝ている。
顔が傾いて帽子がずれ落ちかけているけれど、身体自体は綺麗に丸くなっている。
(可愛い……)
弥澪の寝顔に思わずドキッとしちゃう。
オレがキュンキュンしている横で、ユキがスマホを取り出して写メっていた。
オレと、弥澪を。
「うん、綺麗に撮れた」
画面を覗き込むと、眠る弥澪とそれを見つめるオレがバッチリと写っている。