第4章 Happy Birthday 11/11〔百〕
「じゃあ弥澪がお酌してくれるってこと?いつもはしてくれないのに?」
「今日は特別だよ。ね、弥澪」
「うん……特別……」
二人の言葉に私は少々戸惑っていた。
普通に褒められるのは問題ない。
ただ、それがエスカレートした極端な褒め言葉は慣れていない。
「弥澪?」
百くんに顔を覗き込まれた。
目の前に彼の顔があって思わず大きく後退してしまう。
「なんで逃げるのー!」
「ごめん!ちょっとびっくりして!」
「びっくりってオレなんかした?」
困ったような表情をされて違うと首を振る。
すると百くんの後方で千くんが吹き出した。
「モモ無意識すぎ」
「やっぱりオレなんかした?」
「女性が突然男性に近づかれたらどう思う?」
千くんの言葉に百くんが考え込む。
その顔が真っ青になっていき、何事かと声をかけようとすると、
「変態!って引っ叩かれる!」
と叫んだ。
スタッフさんが笑い出し、千くんがズッコケる。
「百さんは相変わらず面白い方ですね」
スタッフさんが何気なくそう言い、部屋を出て行った。
「弥澪!引っ叩くのはやめてね!アイドルの顔だから!」
「引っ叩きません……」
呆れながら私は立ち上がり、車のキーを取り出す。
「車を出してくるから、準備をして待ってて」
二人の返事を待って部屋を出る。
扉を閉めかけて私は思い出したように部屋の中を覗き込む。