第1章 ★とりっくおあとりーと〔一織〕
呆れたように視線を向けてくる彼はベットから起き上がるとため息をついた。
「Trick or Treat」
そうしていつもどおり毒舌を…………あれ、毒舌じゃない…?
というか今、何て?
「一織くん、今……」
「Trick or Treat、と言ったんです」
「…………ええぇぇぇ!?」
これは夢!?それとも現実!?
試しにほっぺたをつねってみよう。
「いたたたた!!」
「一人で何やっているんですか」
夢、じゃない!!あの!一織くんが!『Trick or Treat』って!
「大丈夫!?熱でもあるの!?」
「あなたは私を馬鹿にしているんですか!?」
「あ、ごめん」
彼がガラにもないことを呆気なく言ったものだからつい叫んでしまった。
でもよく考えたらそうだよね……。
一織くんだってそれぐらい……。
「やっぱり熱ある!?」
「ありませんよ!!…………まったく……」
盛大にため息をつかれてしまった。これは相当呆れられているはずだ。
「ご、ごめんね?」
「許しません」
「えっ」
「私は『Trick or Treat』と言いました。でもあなたはお菓子を持っていません。だから悪戯をされても文句は言えませんよね?」
「え、一織、くん?」
急に真剣な表情になった一織くんは、私の手から箱を取り上げ机の上に乱暴に放り投げた。
「ちょっ……そんな乱暴に……!」
「少し黙ってください」
そう言った一織くんに腕を掴まれたかと思うと今度は私が、半ば乱暴にベッドに放り込まれた。
待って、一織くん顔が怖い。なんでそんなに怒っているんですか。
馬鹿にしたから?子供扱いしたから?大声上げたから?
「……」
あ、多分全部ですよね……。
黙ったまま私の顔を覗き込んでくる一織くん。
「ち、近いっ……」
「逃げないでください」
彼から逃げるように後退するものの、後ろは壁。あっという間に逃げ場をなくしてしまう。
「弥澪さん」
名前を呼ばれて顔を上げると……。
「ん」
一織くんの口が私の唇を塞いだ。
数秒もしないうちにそれは離れていたったけれど、彼との距離は近いままだ。