第1章 ★とりっくおあとりーと〔一織〕
「い、一織くん!?大丈夫!?」
「頭の中でたくさんの動物たちが踊っています……」
「わー!一織くん、戻ってきてー!」
というか、それどういう状況なんだろう。森の中で動物たちと遊んでいるのかな。
とにかく早く戻ってきてください。この後大事なトークショーなんですから。
「今日は散々な一日でした……」
寮に戻ってきた最初の言葉もやっぱり愚痴だった。
あの後なんとかトークショーをこなしてイベントを終わらせることが出来たけれど、一織くんはそれはもうげっそりしていた。
「とりあえず無事に終わって良かったね。お菓子もたくさん貰えたみたいだし」
「こんなに貰っても食べきれませんよ」
「んー、それはもう仕方ないかな。事務所全体で食べきれる様になんとかしてみるよ」
ぐったりしてしまってベッドに横になる一織くん。
本当にお疲れ様です。
「でも本当に凄いね、一織くんは」
「何がですか……」
「あんなに嫌がっていたのにステージに出た途端、ファンの子たちのために頑張っているんだもん。横から見てて凄いなーって感心しちゃった」
「仕事ですからね……」
この子仕事の時は文句言わずに取り組むんだけどなぁ。
なのになんでオフになるとこうも冷たいんだろう。
お菓子の入った箱を抱えたまま一織くんを振り返ってから、私はふと思い出した。
「そう言えば一織くん、『Trick or Treat』って一度も言わなかったね」
「必要ありませんでしたから……」
「もう、ちゃんと言わなきゃダメでしょ。ほら、遅いけどちゃんと言ってごらん」
「『言ってごらん』って、私は子供ですか」
「そういうところは子供みたいだけど」
本心です、これ。
一織くんは一見クールに装っているけど、本当は凄く子供っぽいところがたくさんある。
時々見せるやけに大人ぶるところが特に子供っぽい。
まるで見栄を張っているみたいだ。
「ほらほら、言ってみて。そうしたら褒めてあげる」
「褒めてくれなくて結構です」
「一織くんが言わないなら私が言うよ?お菓子を持ってない一織くんは悪戯されちゃうのかなー?」
「……」
あ、完全に軽蔑するような表情。