第3章 家族〔陸&天〕
「でも……もう逃げるのはやめようと思う。君にきちんと伝えておきたい」
橋がなくなった。溝が少しずつ埋まっていく。
「ボクは君たちを忘れたことなんて一日もない。今は九条さんのために必死だけど、いつか……いつか弥澪や陸のところに戻りたい」
握られた天の手が強く握りしめられた。
その手にもう片方の手を重ねると、彼の表情が緩んだ。
昔みたいに私の前で笑ってくれた。あの優しい天がまた私の前に帰ってきた。
「そんなこと、叶うわけないって分かってるんだ。でも、それぐらい願ってもいいよね?」
「……当たり前だよ……私だっていつも天が帰ってきますようにって思い続けてるんだから……陸と天が、昔みたいに私の前で笑ってくれたらそれでいいからって……ずっとずっと思ってるんだよ…?」
ポロポロと情けなく涙がこぼれた。
けれどそれを拭うことなく、私は天の手を強く握りしめた。
「ありがとう、弥澪」
天の手が離れ今度は頰に触れてきた。
そしてそのまま彼の顔が近づいてくる。
思わず身を引くと、天はクスッと笑った。
「ごめんね、ボク、君のことが好きなんだ」
「えっ……」
突然のことだった。
顔が近すぎて逆に目がそらせらない。
でも、このままでは。
「天……私は……」
「……陸のことが好きなの?」
「ううん、違うの。でも天のことも陸のことも、大事な家族だって思ってたから……その……ごめんなさい……」