第3章 家族〔陸&天〕
はっきりと記憶に残っている。
天が九条さんの元へ行ってしまう数週間前。
私と陸と天で留守番をしていた時、陸がひどい高熱を出してしまった。
電話をかけようとしていたが慌てていたからか、階段から落ちそうになった天を助けようとして、代わりに私が転落した。
幸い頭を打っただけだったけれど、丸一日私は目を覚まさなかったのだという。
ようやく目覚めた時の陸と天の泣き顔は今でも忘れられない。
陸はもう大泣きでしがみついてくるし、天も涙を溜めて私の手を強く握りしめていた。
「ごめん……ごめんね、弥澪……」
泣きじゃくって何を言っているか分からない陸に対して、天はずっとそう呟いていた。
そしてあの日から少しずつ、私と天の間に溝が出来始めた。
「その後ボクは君や陸を捨てて出て行った。でも君たちがいないことがボクはつらくて堪らなかった。いつも二人の写真を見て、九条さんたちに隠れて泣いていたんだ」
「……じゃあ私を避けていたのはどうして?」
「不慮の事故だったとはいえ、君を危険に晒したボクが傍にいる権利なんてないでしょ。それにまた同じことになるのが怖くて、ボクは君から距離をとったんだ。それが君を避けたもう一つの理由だよ」
「そんな……あれは私が勝手にしたことだから……!」
「それでもだよ。ボクの心が許さなかったんだ」
溝が深く深く、私と天の間に出来ていた。
長い時間をかけてもはや底が見えないぐらい、私の足元には天のもとへ行くための道がなくなっていた。
そこに橋をかけて渡ろうとすると、天の居場所がどんどん離れて行く。
追いかけても追いかけても、その場所にはたどり着けない。