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アイナナ~当たり前すぎる日常〜

第1章 ★とりっくおあとりーと〔一織〕



「あー……イチ、大丈夫か?」

「……」



躊躇いがちにそう尋ねる大和さんと、石になったように固まる一織くん。
このイベントは一織くんにとって手強い相手。

というか、一織くんの可愛いもの好きに対する挑戦状みたい。



(一織くん、可愛いもの大好きだからなぁ……。途中で本性さらけ出さないか心配だな……)

「一織さん!もうすぐ始まります!しっかりしてください!」



紡ちゃんが必死に一織くんを揺すっているけど、彼は微動だにしない。

うーん、相当参っているな、これは。



「一織くん!ファン全員野菜だと思えばいいから!」

「弥澪さん、それ古いですよ」



ようやく言葉を発した一織くん。でもその言葉は私を馬鹿にしているようなしていないような。



「と、とにかくスタンバイしてください!あとはアイドルのプロ根性で!」



紡ちゃんも大概だなぁ……と思うけれど、正直私も同感。

今はとにかく乗り越えるしかない。
すると一織くんは億劫そうに頭を振って仕方なしにステージへと足を踏み出していった。

その後ろを歩く陸くんの笑顔が痛いくらいに眩しくて、一織くんのことが余計に心配になってしまうのだった。




















「もう二度とやりません……」



裏方へ戻ってきた一織くんは最初にそう口にした。
彼は凄くだいぶやつれた様に見える。けれどその手にかかえられた箱にはたくさんのお菓子が詰まっていた。

さすがアイドル、凄い人気。



「お疲れ様、あとはトークだけだからメンバーの顔を見ているだけで大丈夫だよ」

「一織!俺こんなに貰った!」



陸くんが箱を掲げて一織くんに声をかけた。
でも当の本人はぐったりしていて、もはやいつもの様に毒舌を吐くことすら不可能の様だった。



「陸、ボクもこんなに貰ったよ」

「わぁ!天にぃ凄い!さっすが!」

「陸もこれぐらいもらえる様にならないとね」

「もちろん!天にぃを抜かせるぐらい強くなるから!」



強くなってどうするんだろう。なんかボルテージみたいなのが上がるんだろうか。
それで魅力とか色々と?

そんな馬鹿げたことを考えてから一織くんに視線を戻すと、彼は完全に抜け殻と化していた。

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