第3章 家族〔陸&天〕
ただ伝えたいだけなのに。
天のことが大切だと伝えたいだけなのに。
複雑なこの想いだけはどうしても伝わらない。
呟きとともにたった一粒だけ、涙が私の右頬を伝っていった。
「大和さん、煉華さん、おかえりなさい」
寮に戻ると壮五さんが出迎えてくれた。
寮の中はずいぶんと静かで、時折奥の部屋からナギさんの興奮した声が僅かに聞こえてくる。
そしてちょうど陸の部屋から一織くんが出てきた。
「どうだった?」
「駄目ですね。完全に塞ぎ込んでいます」
「あの、陸は……」
二人にそう尋ねると、一織くんがため息をつきながら呆れたように答えた。
「涙で目を腫らしながら帰ってきたかと思えば大声で『オレの馬鹿!』と叫んだ挙句、布団に潜り込んで出てこなくなりました。いくら声をかけても何も言ってくれないんです」
「……私が話してくる」
「大丈夫なのか?さっき九条とも喧嘩したばっかりだろ」
「これは私の問題ですから……心配しないでください」
気にかけてくれる大和さんににっこりと微笑んで私は陸の部屋の前に立った。
扉をノックしようとしてその手が止まる。
(大丈夫……本当の気持ちを話せばいいだけだから……)
決意を固めて扉を叩く。返事は返ってこない。
「陸、入るね」
声をかけても返事が返ってくることはなく、私はそっと扉を開けた。
中はカーテンが閉められ、電気も付いておらず真っ暗だった。
その中のベットがこんもりと盛り上がっているのが目に映った。