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アイナナ~当たり前すぎる日常〜

第3章 家族〔陸&天〕




電話の向こうにいるのは龍之介さんらしい。

しばらくして再び大和さんが電話の向こうに問いかけた。



「九条?お前、朱凪の連絡無視してんだろ?ちゃんと返事ぐらいしてやんねーとじゃね?」



天が電話に出たらしい。

一体何を話しているのかと気になり、思わず耳を寄せると、大和さんはスマホを差し出してきた。



「え?」

「九条が話するってさ」



差し出されたスマホを前に私はおそるおそる手を伸ばす。

ちらりと大和さんに視線を向けると、彼は軽く頷いてくれた。


ひとつ深呼吸をしてスマホを耳に当てた。

けれど言葉が出なかった。
何を言えばいいのかと悩み、考えれば考えるほどに頭の中が困惑してくる。



『……弥澪?』



天の声が聞こえた。
収録などでよく会うから聞きなれているはずなのに、その声を聞いた途端、張り詰めていた感覚が緩んだ。



『用事がないなら切るけど?』

「ま、待って!」



慌ててそう叫ぶと、電話の向こうから笑い声が聞こえてくる。


『相変わらずの慌て方だね。君って慌てると早口で大声になるし、すごい顔するから見物なんだよね。電話越しでちょっと残念』

「何それ!?」

『ふふっ……少しは緊張解けた?』



ふんわりと包み込んでくれるような優しい声。
幼い頃、私と陸にたくさんのお話をしてくれた温かい声。



「天……」

『何?』

「あの……」

『……』

「……メール、見てくれた?」



かろうじて出たのはそんな言葉だった。

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