第2章 ★愛すべきもの〔大和〕
絶対そうだ。大和は気にくわないことがあればいつも、仕置きだとか言って私を襲ってくる。
(い、言えない!スタッフさんに襲われて爪が掠ったとか!言えるわけがない!)
それは一週間ぐらい前のことだった。
MEZZO"の収録の際、とあるスタッフに部屋へ連れ込まれ襲われたことがあった。
その時必死に抵抗をしたことで、相手の爪が脇腹を擦り、その傷が小さいながらも残ってしまったのだ。
それがこんな形で見つかることになろうとは。
(でもあながち嘘でもないよね。『怪我ってのは本当だし……ただ襲われた結果ってだけで……)
駄目だ。どう言い換えてもなにも変わらない。
「……えっと……この前MEZZO"の収録の時にスタッフさんと打ち合わせしてて……」
どう誤魔化しても無駄な気がしたので事実を話しながら顔色を伺う。
「……」
(う……笑顔なのに目が全然笑ってない……)
この状況がひどく恐ろしくなってきたので、視線をそらして続きを話す。
「それで……」
「それで?」
「……襲われました……」
「……」
反応がない。
怒っているのだろうが、その目を見る勇気が私にはない。
「……襲われて抵抗して、その……脱がされかけた時に爪で引っかかれちゃって……」
「……襲、」
「ご、ごめんなさあぁい!!!」
何かを言われる前に即座に謝る。
この後何が起こるかは分からないけれど、その何かを想像しただけで悪寒が起きてしまう。
「打ち合わせだって言うから油断してました!でもでも、ちゃんと止めようとしたから!それに少し触れられただけで何もないから!だから怒らないでー!」
「……必死すぎ」
「当たり前!」
「まぁ、怒らないでって頼みは聞けねーけど」
「やっぱり!分かってたけど!」
もうヤケクソだ。
こんな状況ではなにをしても抵抗出来ないし、なにを言っても聞き入れてくれない。
覚悟を決めてぐっと目を瞑ると、絆創膏の貼られた右耳に大和の息がかかった。