第2章 ★愛すべきもの〔大和〕
(演技中はいつだってまじめなのになぁ…)
現場で見る大和の演技は誰もをうならせる実力だ。
少々動作が大げさにも見えるが、役に入り込むには十分だ。
「……『俺には夢がある。だからお前を追いかけることはできない。でも、いつだってお前のことを一番に思っているから』、かぁ……」
以前出演したドラマのシーンでそんな台詞を言う場面があった。
大和演じる名医のドクターが、海外に行ってしまう幼馴染に気持ちを告げるシーン。
あの時の大和演技は現場にいた女性たちをキュンとさせるほどだった。
私もその良さにドキドキしてしまっていた。
「あれは反則だよ……」
独り言でそう呟いてから、大きな息を吐く。
「ずるいなぁ、大和は」
本人の前では言えないそんなことを思わず口にする。
きっとこれを大和が聞いていたら、
『何がずるいだよ。弥澪だって、結構ずるいとこあるぜ?』
とかなんとか言い返してきたんだろう。
そう思うとムカッとするものの、やっぱり大和だなという実感が、嫌という程に私を埋め尽くす。
そうして埋め尽くして彼は私を離そうとしなくなる。
「やっぱりずるい」
何度同じことを繰り返しても、彼をほしいと思ってしまう。
嬉しいという感情が毎日のように溢れてきてたまらなくなる。
「つらいなぁ…」
やっぱり大和を好きになってしまったのは運命だったのだろうか。
事務所での仕事を終えて寮へと向かい、大和の部屋にお邪魔する。
これが私の日課だ。
今日も難なく仕事を終えて寮までやってくると、玄関先に大和と三月さんの姿があった。
「よぉ、お勤めごくろーさん」
「今日も来たんだ。相変わらず律儀だよなぁ」
「お疲れ様です。二人はここで何をしていたんですか?あまり外で騒ぐと逆に騒がれますよ?」
話を聞くと、寮の中には陸くん、環くん、一織くん、ナギくんの四人がいるのだという。