第1章 ★とりっくおあとりーと〔一織〕
そっと顔を伺えば、彼は少し汗ばんでいた。
その表情で彼も気持ちがいいのだと分かると、つい嬉しくなってしまう。
「あっ……あんまり、締め付けないで、ください」
「そんなの……知ら、ない……」
無意識のうちに強く締め付けていたらしい。
耐えるように一織くんがぐっと力をこめた。
「弥澪さ……」
もう理性なんて残っていなかったらしい。
いつもと違う一織くんが目の前にいた。
「弥澪……弥澪……」
必死に私の名を呼ぶ一織くん。
「一織く……あぁあッ!!」
またしても体が震え、頭の中が一瞬真っ白になった。
そんな状況で唯一分かったのは、私の中にある一織くんのそれがドクドクと波打っていたことだけ。
「一織くん……」
回復してきた意識の中で彼の名前を呼ぶ。
すると彼は少し不満げな表情で言った。
「呼び捨てで呼んでください」
「え……?」
「私はあなたを"弥澪"と呼びました。だからあなたも私のことを"一織"と呼んでください」
「……一織?」
「なぜ疑問系なんですか」
「……一織っ……」
愛するその名を呼ぶ。更に繰り返し呼ぶと一織く……一織が優しい笑みを浮かべた。
「はい、一織です」
「一織……一織っ……!」
「何ですか?」
「キス、して……」
すがりつくように名前を呼び、キスを求める。
もう何を言っても恥ずかしいという気にはならなかった。
もちろん恥ずかしいことは恥ずかしいけど。
でもこんなことをした後だから、これ以上に恥ずかしいことなんてこれっぽっちもない。
「やっと素直になりましたね」