第2章 優しい気持ちで
「タイが曲がってるじゃないの…ホラ、背筋伸ばして!」
着替え終わった所を伯爵に見せると首元の飾り紐を直されたが、後は上手いこと着れた様だった。本来はこの上に黒い羽織りがあるらしいのだが、こちらは仕立て直すのに手間が掛かる様なので今日は無い。
「馬子にも衣装ね」
伯爵は満足そうな笑みを浮かべ、なんとも失礼な感想を述べる。私は苦笑いで応える。
「アンタが男ならタイプなのに、女なのが残念ね」
伯爵の香り水がすぐ近く匂って、いい香りなのに頭がくらくらする。
折角結わえた髪が伯爵の白い指によって、さらりと解かれて行く。
「…それは、ど、どういう意味ですか?」
むに。
伯爵、またですか。
「そのままの意味よッ!鎧なんてつけてたら男だと思うでしょ!?最初からアンタが女って知ってたら屋敷に上げなかったわよ!キィィィィ!」
「いはい!いはいふぇふ!」
伯爵は悔しげに私の頬をつねって左右に引っ張る。
何が何だかさっぱり分からないが、影として私に鎧を着せて下さった天草殿に心からの感謝を述べた。