第2章 優しい気持ちで
「あ、あのー、伯爵殿」
「腕上げて」
「は、はい!」
小間使い用の服に袖を通したが案の定ぶかぶかだった為、私は先程からさんじぇるみ伯爵に身体中を測られていた。
私は異国の装いなんて詳しく無いけれど、何もわからないほどの間抜けでは無い。
「あの、伯爵殿…」
「もう何よ!さっきからうるさいわね」
「…この召し物は男物ではないですか?」
港で見た南蛮の女はみんな牡丹の花みたいなひらひらとした着物を着ていた。そして窮屈そうなこの細身の袴を身に着けていたのは、漏れなく男だった。
「そうよ、なんか文句あるの?」
あっけらかんと言い放つ伯爵。
自分の性別を偽るだけに飽き足らず、私にまでそれを強いるとは。
今後このお方の下で暮らす事について一抹の不安に駆られる。
「えっと…文句も何も、そもそも私は女ですし、」
「コレしか無いんだからガマンしなさいよ」
伯爵は毎度の事ながら私を冷たくあしらうも、動かす手だけは止めない。
「此れの他に無いんですか?」
「絶対イヤよッ!使用人は黒い燕尾服以外認めないの!アタシの美的センスが許さないッ!……もう腕下ろして良いわよ」
そう言い終わるとあれよあれよと言う間に私は身ぐるみを剥がされ、素っ裸にされる。
「なな、何かっ、着るものを……」
勿論、私にも恥は残っているのでもじもじと大事な部分を隠し、何か着るものを催促するが、「アンタのガリガリの裸なんて誰も興味無いわよ」と一蹴される。
泣きっ面に蜂だが、骨と皮しか無い様な身体では何も言い返せなかった。
「それにしても補給も無しに、アンタたち三か月もよく食糧持ったわね」
「いいえ、そういうわけでは、」
籠城の途中で糧が尽きた後の事を思い出し、ずんと気分が落ちる。
「食べる物が無くなった後はずっと、その……か、海藻を……」
命を救われこそしたが、正直なところ当分海藻は見たくもない。
「……やっぱり日本人ってクレイジーね」
「く…くれーじー、ですか?」
珍妙な顔をする伯爵に言葉の意味を聞けども、「細かい事は気にしないの」と結局教えてはくれなかった。