第1章 Hello,world!
「あの…」
「何よ」
私はずっと気になっていたことを問う。
「私は死んだのでしょうか」
翡翠の瞳がみすぼらしい私の姿を映し込む、それだけで言葉が失せ、息が止まる。
頬に走る鈍い痛みによって現(うつつ)へ戻された。
「アンタそんな事もわからない程おバカなの?」
「いはい、いはいへふ!」
女男に加減なんてものはなく、兎に角痛い。痛いのだ。
じわりと目に涙が滲む。
私の短い生涯で、生きるという事は苦しむ事と同義だった。
村の男達はいつ終わるかも分からない戦に借り出され、子供だからと言って遊んでいることは許されなかった。
痩せた土地は実りが少なく、しかもその多くは税として納めなければならず、村は疲弊していた。
だから皆、救いを求め、祈り、戦った。
弾圧に、飢えに、戦火に耐えて耐えて耐えて。
天草殿をお守りする為、遂に華々しく散ったと思った今尚、痛みに、生に、囚われている。
「私は…何故、生かされ、てるので…しょうか」
言いしれぬ不安に襲われて、涙は川となりと頬に流れる。
「そんなのアタシが知るわけ無いじゃないの。それよりアンタみたいな小汚い娘拾ってあげた事についてまだ礼の一つも言って貰って無いんだけど?」
「………」
拾ってくれと頼んだ謂れはない。
ただ傷の手当てはされてるし、こんな綿の入った温かい布団で寝かせてくれた事は、一応感謝した方が良いのか。
そんなことを考えていると、身も蓋も無い言葉が飛んできた。
「恩はキッチリ返しなさいよ。手持ちが無いなら身体でも何でも使って」
「か、身体っ!?」
ぎょっとして私は自分自身を守る様な体勢を取る。
「勘違いしないで頂戴。アンタ、自分にそんな価値あると思ってんの?労働よ、労働!」
慄いて頭を上げた私を、まるで雑巾でも見る様な冷たい目で見て言った。
この日から、この大きなお屋敷が私の帰る家になった。