第7章 サウダージ
多聞殿としゃいろっく殿の初めての会合は漂流者(ドリフターズ)についてや、"ぐ・びんねん"の成り立ちから現在の情勢、そこに住まう人々から通貨の事まで駆け足で説明した。
殆どが多聞殿の質問にしゃいろっく殿が答えるだけのやり取りとなったが、向かい合う二人の言葉の一つ一つを仲介させられるというのは思った以上に頭を使う。
多聞殿を無事鉄船(飛龍という名前らしい)まで送り届けた後、与えられた客間の"べっど"に疲労困憊の身体を投げ出した。
「相変わらず警戒心が薄いんだね、君は」
うつらうつらと浅い眠りに入り掛けていたところにその声がして、私ははたと飛び起きた。
目の前にはにこりと微笑むしゃいろっく殿が腰掛けていて、その佇まいからは育ちの良さが滲み出る様な優雅さが感じられた。
「ノックしたのだけど返事が無くてね。鍵が開いていたから入らせてもらったよ」
悪かったね、と彼は悪びれもせず言うもんだからなんだか怒ることもできず、私も曖昧に「はあ」と答えた。
「今日はお陰様で有意義な話し合いができた。……しかしこんなに早くあのドリフを連れてくるとは。私は君を少し過小評価していたのかもしれない」
冗談でも皮肉でも無い、素直な賞賛に少しばかりこそばゆい気持ちになって頬を掻く。
「いやあ、どりふの方とお話しするなんて初めてだったので、私もこんなに上手く行くとは思ってませんでした」
安堵からくる笑みをこぼす私と対照に、しゃいろっく殿は神妙な面持ちで固まった。
「……あの、どうかされました?」
今の話のどこに引っ掛かりを覚えたのか皆目見当がつかない私は恐る恐る尋ねる。
「そうか、……アイツはそんな事も話してないのか」
「しゃいろっく、殿?」
「君の主、サンジェルミ大藩地伯。彼はれっきとした漂流者(ドリフターズ)だよ」