第7章 サウダージ
漂流者(ドリフターズ)やこの世界について私が知り得る限りの事を一通り話し終わる頃には、広げられたご馳走は忽然と消えていた。
勿論、消えたと言っても多聞殿の腹に全て収まったというだけの話だが、たった今、目の前で起こったはずの事がにわかに信じられない。
ゆうに三人前はあったはずだ。
「それで、元の世界に戻る術は無いのか?」
それまで黙って私の話を聞いていた多聞殿がポツリと言葉を発した。
正直、それは思ってもみない問い掛けだった。
「……そ、それは…」
私が答えに詰まっていると、多聞殿は悟った様に笑いを漏らした。
「そうだよな。わかってたらお前さんもとっくに戻ってるだろうしな」
返す言葉が見つからず、私は苦笑いで煙に巻いた。
衣食住が確保されていて平和な今の暮らしと、飢えに苦しみ明日の命もわからぬ戦乱の日々。
元より討ち死にを覚悟していたせいもあってか、私はあちらの世界に戻る方法を考えたことが無かった。
天草殿、私は薄情者なのでしょうか。
「さてと…お前さん、話にあった私に会いたいと言っているお偉いさんのとこまで案内してもらおうか」
「か、構いませんが、今からですか?」
多聞殿のえらく都合の良い申し出に面食らった。
「先方の都合が悪いんだったら出直すまでさ。なんせ今の俺にはまるで情報が足りねぇからな」
「…分かりました、ご案内します」
今日は一先ず、しゃいろっく殿の意向を伝える事が目的だった訳だが思わぬ成果が得られた様だ。