第7章 サウダージ
「そう、なんですか……」
絞り出した返事とは裏腹に単純な言葉の意味を、その事実を把握するのにえらく時間が掛かってしまった。
伯爵が私の世界を、言葉を知っていたのは……同じ世界から来たからだと。考えてみれば当たり前の事なのに何故思いもよらなかったのだろうか。
「やはり私はとんだうつけ者ですね。あんなに伯爵のお傍にいたのに、全く気づけませんでした。……何たる不覚」
いつの時代から来たのか、何故"おるて"で貴族をやっているのか、いつからこの世界にいるのか。伯爵への疑問は尽きないがとりあえず穴があったら入りたい気分になって、私はへたりとしゃがみ込んだ。
すると突然しゃいろっく殿はくっくと、終いには大きな声をあげて笑いだした。
「そんな重要な事を隠されて、怒りたくはならないのかい?」
「え、ああ…言ってくださればいいのにとは思いますが、怒るほどでは……」
「そうか……ではサンジェルミの『執着』に、君のその『心服』。この二つが揃っていて何故奴は私のところに君を寄越した?」
全く食えない奴だと、また笑うしゃいろっく殿の笑顔には少年の様な純朴さと、ぞっとするような冷たさが同時に存在してる様に見えた。
口にはしないが、この二人は好敵手の様な関係なのではと思索する。
「では私も私のやりたいようにさせてもらうとしようか」
構わないだろ、?、聞かれたところでその問い掛けを断る権限など、私は持ち合わせていなかったのだ。