第6章 コネクト
漂流者は様々な時代の、様々な国からこちらにやってくる。そんな話を伯爵から聞いた気がする。
私の時代にあんな鉄の巨大な船を作る技術は無い…つまりあそこの漂流者は私の時代のもっと先から来ていて、種子島も進化しているということだろうか。
「この距離なら届かない?話が違うじゃないか!」と船頭は慌てて舟を港に引き返そうとする。
ちゅんっ。
二発目は舟手前の海面に着弾。
一発目から二発目の間隔があまりにも短くて驚いた。
弾込めに時間を費やしていた私の頃とは、もはや違う武器に思える。
「待ってください!こちらが危害を加えないとわかればきっと漂流者(ドリフ)だって無闇に撃ったりしません」
「しかし近づかない事には話し合う事も出来ないだろう」
小型の刃物を携えた護衛の男も、接近戦に持ち込まなければ成す術は無い。
船頭は器用に櫓を漕ぎ、舟はゆっくりと元来た港へと向きを変える。
「待ってください!」
「アンタは命が惜しく無いのか?」
「でもこのまま引き返す訳にはいかないんです!」
今ここで尻尾を巻いて逃げたとして、私に帰るべき居場所があるのか。
屋敷を追い出され、しゃいろっく殿の依頼も果たす事が出来ない。
一体何の為にこの世界に…此処に来たんだ。
考えろ、考えるんだ私。
前の世界、今の世界、伯爵の話、島原での戦い、籠城、矢文、交渉、投了、降伏、合図…
「……笠っ!確か降伏の合図は笠を振るんです!」
「カサ?カサとは何だ?」
「笠は頭にかぶって日差しや雨を防ぐ物で……もう、とにかく振ってくださいっ!」
私は舟を漕ぐのを止めない船頭さんの頭に巻かれた白い布を剥ぎ取ると、とにかく振った。
「あぁ私のターバン!」
それを見て護衛の男も同じように、自分の頭に巻いた布を巨大な船に向け振った。
奇跡的にその行為は彼女の生きた何百年後かに、停戦交渉や降伏の意思表示として用いられていた……なんて事は露ほども知らずに。