第6章 コネクト
「もうすぐ着きます」
見覚えの有る港一番の大きな建物が近づいてきて、目の前の広場にゆっくりと着陸すると、知らせを受けてしゃいろっく殿が出てきた。
「……私はサン・ジェルミを連れて来いと言ったはずだが」
恐怖と浮遊感から解放され、石畳の地面ににへたり込む私を一瞥し、しゃいろっく殿は静かに言った。なんだか少し空気がぴりぴりしているようだ。
「何度もそうご説明したのですが、伯がどうしてもこの御方を連れて行くようにと言われまして」
「を、か?…手付金は?」
「全て受け取られました」
「……ならば奴にも考えが有るのだろう」
なんだか口を挟める様子では無かったのでそのまま黙って見ていると、急に話を振られる。
「やあ、サンジェルミと喧嘩でもしたのかい?」
いきなりぐさりと核心を突く質問。
「…………そ、そんな事、無いです」
平然と答えられる程、私は嘘の上手い人間では無かった。
「…そうか。いろいろ事情がありそうだが今はゆっくり聞いている暇がなくてね…本題に入らせてもらうよ」
にこやかな笑顔はすっと消え、真剣な表情に変わる。
「数日前に岩礁に巨大な鉄の船と一人の男が流れ着いた。彼と私達グ=ビンネンで話し合いの場を設けたくてね…その折衝(せっしょう)を君に頼みたい」
しゃいろっく殿は流れ着いたと、そう言った。
つまり、相手は漂流者。
簡単に返事ができる話では無い。
「情けない話だが、少し事が拗れていてね…。一昨日の晩、三人の若者がその船に忍び込もうとした。まあ本人たちは肝試しか遊び半分のつもりだったんだろうが」
暫し空く間。
「……そいつらは全員死体になって帰ってきた」
え、
聞き返すまでも無く、しゃいろっく殿の目は冗談などを言っている様には見えなかった。
「それ以来、食料の差し入れも拒まれてしまっていてね…言葉が通じないというのは思った以上に厄介だ」
ははは、と笑うしゃいろっく殿。何が可笑しいんだか理解に苦しむ。
許されるのであれば、断りたい。
今すぐ逃げ出したい。