第4章 ドレミファだいじょーぶ
「あらあらやーねー、グ=ビンネンの放蕩息子ったら思った以上に手が早いのね。オドロキだわさ」
伯爵、伯爵、はくしゃくっ!
一番に聞きたかった人の声。
「なんだか楽しそうじゃない?アタシも混ぜなさいよ」
目を開けると、金色の髪を掻き上げて伯爵がそこに立っていた。
「は、伯爵っー!!」
するりとしゃいろっく殿の手を抜け、興奮した犬のみたいに伯爵の腰回りに飛び付こうとする……が、片手でさっと払われその勢いのまま軽く柱で頭を打った。
「何という仕打ち……助けに来て下さったのでは無いのですか!」
「ギャーギャーうっさいわねアンタは!おつかいの一つもまともに出来やしないのに調子乗り過ぎよ!」
額をさすり、床にへたり込む私の尻の辺りを容赦無く踏み付ける伯爵。
「ぎゃうっ!痛い、痛いですって」
「あらやだ、色気の無い声ね。ウフフフフ」
「買い物ならちゃんと済ませましたって!何で怒ってるんですかぁ!ひぃぃ!」
そのやり取りを見て、いつの間にかしゃいろっく殿は笑っていた。
「サンジェルミわかった、私の負けでいいよ」
「何よ勝手に攫っといて厚かましいわね。ホント顔以外大ッ嫌い。顔以外全然かわいくない!」
一体この二人はどんな関係なんだろうか。
わからなくなってきた。
「ねぇサンジェルミ、キミって実はバイなのかい?」
「ばい…?」
「気持ち悪いこと言わないでよ、まったく失礼しちゃうわ!」
「それにしては随分と、にご執心じゃないか?」
「伯爵"ばい"とはどういった意味でしょうか?」
「ウルサイ!ウルサーイ!帰るわよ、」
その時、私は驚きで足を動かすことができなかった。
「……アンタ何やってんの?置いてくわよ?」
訝しげな顔で振り返る伯爵。
「今、伯爵が…初めて名前を呼んでくださいました!嬉しいです!もう一度!もう一度呼んで下さい!」
腰にまとわり付く私とひっぺがそうとする伯爵の攻防を見て、またしゃいろっく殿は笑う。ひらひらと手を振りながら。
「サンジェルミが嫌になったらいつでもおいで」