第4章 ドレミファだいじょーぶ
結局、名前を再度呼んでもらうことは叶わなかったが屋敷に帰り着くと、早速伯爵は部屋に籠もって"みしん"を器用に動かしていた。
かたかたと耳に心地よい音が響く中、手際良く縫い合わされていく布を眺めているのはとても楽しかったのだけど、伯爵に「邪魔するなら出てきなさい」と締め出されてしまった。
仕方なく屋敷の雑用を幾つかこなした後、お茶を淹れて伯爵の部屋を訪れた時には、既にほぼ完成といってもいい状態に仕上がっていた。
「は、伯爵!これは!」
今までと明らかに違う、ひらひらの服。
牡丹の花びらみたいな女物の服。
「これ早く着たいですっ!」
「危ないから落ち着きなさいッ!…あと少しだから」
作業の様子を後ろから覗き込もうとするが伯爵に叱られたので、手頃な椅子に掛け本棚にあった難しそうな本をぺらぺらと捲りながら大人しく待つ。
内容はよく分からない。
「そういえば伯爵、お偉い方との会議はどうだったんですか?」
てっきり領主ほど偉くもなると、毎日遊んで暮らせるのかと誤解していたが、今回の会議の様に領主には領主の勤めがあるらしいのだ。
伯爵も大変なんだなぁ、と思うより早く、「そんなのバックレたに決まってんでしょ」となんとも嘆かわしいお言葉。
王都で会議に出たにしては、やけに到着が早かった気がしたけど、気のせいでは無かったようだ。
「…ハイ、できたわよ」
結局その一言で幻滅も失望も帳消しになった。
我ながら、なんて単純なんだろう。
蝶々のような白い襟が可愛らしい黒い"わんぴぃす"という着物と、白いひらひらの前掛け。
早速着てみるとひざ丈の裾が動くたびに揺れて、なんだかくすぐったい。
「伯爵、伯爵どうですか?似合ってますかっ?」
調子に乗ってくるり、と一回転。
蕾が花開くように着物の裾がふわりと広がった。
それを見ていた伯爵はポツリ。
「なんだか……コスプレみたいね」
「…こす、ぷれ?…伯爵、今のは褒めてくださったのですよね?…伯爵?はくしゃくー?」