第4章 ドレミファだいじょーぶ
「お客さん、お困りかな?」
声のする方を振り返ると、色黒の青年が温和そうな笑顔を向けていた。
「あの…布地が、欲しいんですが…お金が、足りないみたい、で…」
たどたどしい"おるて語"で状況を説明する。
「それは大変だ。実は私は金貸しをしていてね……君さえ良ければ足りない分を私が一時的に立て替えるというのはどうかい?」
勿論タダでとは言えないけれど、そう言って彼は懐からじゃらりと何枚かの金貨を取り出した。
そんな突然の申し出に、一番驚いたのは問屋の旦那だった。
「まさか、アンタ…大番頭か!?」
大番頭……聞き慣れない単語を分解して考える。お店の頭の…最上級?
腰を抜かして驚く男に、異様な空気を感じた。
よくわからないけど、とにかくこの人は偉い人なのかもしれない。
結局その後、銀貨3枚と銅貨14枚で必要な布を買い揃える事ができた。やはりというか、私は言葉が分からないせいで危うくぼったくられるところだった。
「ところで君、名前は?」
「わ、私はと申します」
「私はシャイロック。バンゼルマシン・シャイロック」
「ば、ばんぜ…しゃい…」
どうにもこちらの人名は覚え難い。
「シャイロックで構わないよ、よろしくね」
失礼にも当たるそんな様子を笑って見過ごしてくれる辺り、人としての器の大きさを感じる。
あれすた殿もふらめー殿も迷わず鉄拳制裁だったから。
改めてしゃいろっく殿に深々とお礼を申し上げた所、逆に馬車まで買った布を運ぶのを手伝って下さった。
なんてお優しいお方なんだろうか!
この世界で初めての優しさに触れ、私は打ち震える。
「ところでこの後の予定はあるかい?」
「いえ、少し市場を見て回るくらいで、特には」
伯爵からは買い物の後、少しだけなら店を回ってもいいと許可を頂いてある。
「そうか。……私の見立てが間違って無かったら、君はサン・ジェルミのとこの人間だろ?」
伯爵へのお土産の品を考えていたところ、見透かした様にしゃいろっく殿がその名を口にするものだから泡を食った。
「は、伯爵とお知り合いなんですか?」
「まあアイツとは短くもない付き合いだ。君の事も丁重にもてなさなければね」