第4章 ドレミファだいじょーぶ
港の市場は賑わっていた。
店先に並ぶのはみずみずしい野菜や果物、新鮮な魚介類などの食品だけではなく、不思議な模様の硝子細工や小さく精巧な木工細工の様な雑貨も多く目移りしながら歩いた。
ひときわ賑わっていたのは屋台が密集する広場で、串焼きの芳ばしい香りが辺りに漂っていてとても心が惹かれた。
先に言いつけられた買い物を片付ける為伯爵の地図通りに進むと、広場から一本細い道を抜けた先に布問屋を見つける事ができた。
買うべき物は箇条書きで指示されていたが、ところ狭しと並べられた色とりどりの生地につい気を取られてしまう。
考えてみれば反物屋で新品の布を買って、伯爵手ずから服に仕立ててもらうなど、なんて贅沢なことなんだろう。
残念ながら私は布の種類に詳しく無いので、店主に伯爵の走り書きをそのまま渡す。
ぶつぶつ言いながら、布を選んで必要な長さに裁断してくれる。
私はその一連の動作をただ眺めているだけなのだか、問題が一つある。
測り売りの為、金額がわからないのだ。
「あ、あの…全部で、おいくらでしょうか?」
恐る恐る聞いてみると、男はにやにやと嫌らしく笑いとんでもない金額を言い放った。
財布の中身を全部渡しても全然足りない。
伯爵からは念の為にと多めにお金を預かって来たので、それは少し高過ぎるのでは、と言い返したいのだが。畳み掛ける様な男の口調と、訛りの強い聞き取れない言葉の羅列に私は口ごもり、終いには怒鳴られて泣きそうになってしまった。
『アンタ一人でホントに大丈夫かしら』
『大丈夫です!任せて下さい』
拳を握り締め、弱気になる自分を奮い立たせる。王都へ発つ前の伯爵に自信満々に言い切ってみせたのだから泣いている場合では無い、どうにかしないと。