第4章 ドレミファだいじょーぶ
いつもは朝餉を食べない伯爵が、その日は珍しく朝の食堂にやってきた。
食事の用意を申し出るも、伯爵が求めたのは一杯の水だけだった。
伯爵は心無しか疲れてらっしゃる様に見えたので、その事について尋ねるべきか否か、少し迷っていたところ……
「……アンタ、ちょっと太った?」
伯爵の心無い発言が私に刺さる。
「うっ!?…そ、そんなことは無いです!普通です!」
「でもその服、腕も太もももパンパンじゃない?」
「ぐぬぬっ……」
苦虫を噛み潰した顔のまま何も言えなくなる。
伯爵の指摘通り、最近この使用人の服に袖を通すのが厳しくなってきていたのだ。以前はもっとするっと着れた筈なのに。
暑くなって来たので羽織る上着は袖の無い物になっていたのが幸いだったが、相変わらずぴっちりした寸法の"しゃつ"と"すらっくす"は手足を曲げたりうっかりしゃがんだりすると今にも破けてしまいそうな程だった。
「さ…採寸した時は極限に痩せていただけで、これが普通なんですって」
本当のことなのに、伯爵の視線が厳しい。
だって朝昼晩と三食満足に食べる事ができる生活なんて生まれて初めての事だったので、つい食べすぎてしまった事くらいは許して欲しい。
二の腕をむにむにと掴まれ、だらしないとかみっともないとか美意識が足りないとかけちょんけちょんに罵倒された後。なんだかんだで伯爵がまた新しい服を仕立ててくれるという事になった。
そして今、私は南の市場に布地を買い出しに来ている。
本当は伯爵も一緒に来るはずだったのだが、王都より緊急で議会の招集が掛かり来れなくなってしまったのだ。