第1章 〜別れの始まり〜
ピンポーン。
あたしの空っぽの心に響く
チャイムの音
モニターを確認せずにドアを開ける
突然開いたドアにも神崎さんは驚かず
相変わらず抑揚のない声で言った
「宜しいですか?」
「・・・どうぞ。」
1週間前と同じ光景
ただ神崎さんは今日はソファに座らず
ラグの上に正座した
断られるかと思ったけどコーヒーを煎れた
あたしの気持ちを落ち着かせる為に
テーブルの上には誓約書と
お金の入った封筒
名前はもう書いてある
昨日の夜、震える手で書いた
自分の名前
「これでイイですか・・・?」
神崎さんに誓約書を見せるとそれを手にとり
一瞥する
「結構です。」
とすぐに鞄の中にしまった
「・・・お金は受け取れません。
おかしいですよ。
たかが24歳の小娘に500万も払うなんて。」
「受け取って下さい。」
「出来ません。」
「・・・・・・・・・。」
無言であたしを見つめる神埼さんは
少し悲しそうだった。
「困ります。これは会社からの」
「神崎さん。」
あたしは神崎さんの言葉を遮って言った。
「大丈夫です。お金なんて貰わなくても
誓約書の内容はちゃんと守ります。」
そう捲くし立てる様に一気に言ったら
涙が出てきそうだったけど
唇を噛んで我慢した
「・・・・分かりました。」