第21章 ラビュルト宮
「楽しみに待ってる。ラビュ、コートは?」
「ありがとう。持ってくわ。お客さんを怒らせて放り出されたら、歩いて帰らなきゃないかもだもんね」
二人が顔を見合わせて笑ったその時、コン、と、ノックが一回。
「そんな無粋な真似はしねぇよ」
いつの間にか部屋のドアが開いていた。
「コートなんざ持つ必要はねえ」
ドア枠の上に両手をかけた大柄な男が、腰を折って室内を眺め渡している。
妙なフレームのサングラスに、馬鹿げて派手なピンク色の羽根コートが異様に目を引く。
「…アンタ誰?」
男の背後に青い顔をして佇むジャンの姿を見止め、ラビュルトは眉をひそめた。
男はフと視線をラビュルトに定めた。
「お前がラビュルトか」
面白そうに口角を上げて大きく一歩、部屋に踏み込む。
「俺が誰かわかんねぇか。お前の養い親は少なくとも俺の名前は知ってたぜ?急に顔出して随分驚かしちまったけどな」
決して小さくはないラビュルトをあからさまに見下ろして、男はその白髪を鷲掴みした。頭皮ごと持っていかれそうな力に、ラビュルトの頭が仰け反って上向いた。
「止めろ…ッ」
「うるせえ、黙ってろ」
声を上げたジャンを、男がわずらわしげに遮る。
「離しなさいよ」
サングラスに覆われて見えない目を真っ直ぐ見返して、ラビュルトが硬い声を出した。
「…フン?良かったな。お前はお袋に似たらしい」
まるで頓着なく呟いた男にラビュルトの目が瞬いた。
「使用人にしとくにゃ惜しいような女だったからな」
「何の話?」
「何の話って、お前の母親の話だろうがよ」
ラビュルトの反応を楽しむように、男はにやにやと告げた。
「……」
ラビュルトは男の後ろで厳しい顔をしたジャンを見た。
「父さん。この人は何?」
「…この人は、この人は今日の仕事の依頼人で…」
前に出てラビュルトの側へ行こうとしたジャンを、男の長い腕が留めた。
「おいおい、大事なのはそこじゃねえ、エンダ」
ラビュルトの髪から手を離して腕組みする。
「俺はドンキホーテ·ドフラミンゴ。田舎者の娼婦でも聞いた事くれぇあるだろ?」
王下七武海。
背後で姉妹が呟いた。ジャンの眉がひそめられ、ラビュルトは目を見張った。
「まぁな。そういうモンでもある。だがそりゃ今はいい」
ドフラミンゴと名乗る大男はピンクの羽根を揺らして笑った。
