第21章 ラビュルト宮
念入りに梳いた髪にいつものようにの薄荷水を振る。ヒヤッとして、すうっと馴染む慣れきった感覚が快い。
ドレッサーの鏡に映った顔は、ターキッシュローズの口紅とセピアのチーク、目元にオールドモーブで粧われている。
「ラビュはくすんだ色をのせたがるのね」
身支度を手伝ってくれた姉妹が不思議そうに言う。
「パーティのエスコートのときくらい明るい色を使えばいいのに」
「アタシは頭が白いからさ。映えて明るくなりすぎちゃう」
ソバカスの消えた顔をしかめてラビュルトは笑った。
「そう?ずいぶん綺麗になると思うけど」
「はは、じゃ今度試してみる」
「そうしたらいいわ。手伝ってあげる」
顔の色味とは裏腹に鮮やかなインディゴブルーのドレスの裾を膝の上まで引き上げて、ラビュルトは立ち上がった。
Vネックラインのタイトなドレスは長い足に沿ったサイドに緩やかで大きな襞が波打ち、ベルベット地を艶々と際立たせている。
「さて、行くか」
大きな口を左右に引っ張り上げて笑うと、ラビュルトは姿見に映る自分に頷いてみせた。
「今日はお行儀よくしなきゃよ、ラビュルト·エンダ」
プライベートで親しい相手とパーティに出るという仕事だ。
つまり、"知りもしない男と親しいラビュルト·エンダ"である事が肝要な訳で、女優でも何でもないラビュルトには今ひとつ今日の方針が定まらない。
初めての、奇妙な仕事だ。
パーティエスコートは珍しい事ではないが、自分を演じてのパーティという気苦労にラビュルトの眉間は自然皺深くなる。大体パーティ自体好かないのだ。好かないが仕方ない。やりたい事ばかりで毎日は出来ていないのだから。
「ランチョンパーティからディナーまでお付き合いでしょ?長いわね」
気の毒そうな姉妹にラビュルトは笑った。
「今日のラビュルト·エンダは実質貸し切りって事になるわね」
「厭な相手じゃなきゃいいけど」
「まあね。でもいいわよ。兎に角美味しいものいっぱい食べて来てやるから。お土産期待しててよね」
「ジャンの料理とマリィの野菜より美味しいもの?」
「うちのご飯は世界一だけどね。キャビアやフォアグラなんかは滅多にテーブルに載っかんないでしょ?トリュフも旬の時期だしさ、そういうの食べてみるのも悪くないわよ」
「ジャンとマリィが一番喜びそう」
「食いしん坊だからね、二人とも」