第29章 水が流れ出す
「ほらね」
年に見合わない凄味のある笑みがカヤンの端正な顔に浮かぶ。
「そんな事を言って人を試すような真似をするからあなたは信用ならないんだ、ディザーディア。だから我らが守護たるジンはマルヤムの護りにボン·クレーを…がは…ッ」
ボン·クレーにタックルを食らってカヤンが吹っ飛んだ。
「バカヤンたらッ!!!アンタ、そんなカンタンにヒトを信じちゃ駄目じゃないン!すぐ騙されちゃうわよン!バカバカバカ!バカヤン!」
「…何なんじゃ、お前さんは…」
結構な勢いで吹っ飛んで来たカヤンを抱き止めたカクがキャップの庇を直しながらボン·クレーを見た。
「あらン。抱き締めたげようと思っただけよゥん。ちょっと勢いよすぎただけ、みたいなー?」
きょとんとして言うボン·クレーに、カクは深い溜め息を吐いた。
「…本当にお前さんは黙っといてくれんか…。じっとしとれ。口を開くな。出来れば息も止めとれ。おふざけは仕舞いじゃ」
「いつアチシがフザけたってのよ。アチシはいつだって全力投球よン?」
「選手交代じゃ。全力で引っ込んどれ」
「よしきた、全力投球…ッて、ちょっと、邪魔者扱いすんじゃないわよ!アンタ、アチシの代わりにマウンドに立とうっての…んぶァッ!ち、ば…ッ、コラババア!!!何で今鼻っ柱殴りつけた!?アンタ関係ないでしょッ、アチシたちのマウンドに…をがァッ、カ、カカカカク!?鼻っ柱二打目はきっついわ…ッ、何なの?何なのよン!?主役はアチシじゃないン!?」
「ないよ」
「ないな」
「ないのう」
「どこで間違えばお前が主役になるんだよ、ボンカレーゴールド」
「ハナから全部間違ってるからな、このオカマは」
「間違いっちゅうのも烏滸がましいくらい間違っとる」
「えぇ!?マジでか!」
「…何を本気で驚いてるんじゃ。幸せなヤツじゃのう」