第2章 翌日の市場で
「・・・煩わしいのう」
独りでは何を食べても身体を動かす為の燃料を摂っている気がして味気ない。
そのせいで、腹が減っても食う気のしない日が続いていた。
食わにゃ身体が動かん事になるからのう。
賑やかな市場を歩き、豆と肉の煮物が旨い店の前で足を止める。
中に入ろうとドアに手を伸ばしかけたところで、ドンと背中を突かれた。
「・・・あぁ?何じゃ?」
ガシャンと取り落としかけた釣り道具を持ち直し、剣呑に振り返ると、大きな紙袋が視界を塞いだ。
買い込み過ぎじゃろうが・・・
前も見えない大荷物を抱えるほど買い物するならカートくらい持参したらいいだろうに。年寄りや子供とぶつかったら危なかろう。
一言言ってやろうと渋い顔で荷物を取り上げたカクは、そこに煙る瞳と大きな口で笑うラビュルトを見出して息を呑んだ。
「ほらね!すぐ見付けちゃったでしょ?」
洗い晒した白いシャツに履き込んで色褪せたクロップドジーンズ、昨夜とはうって変わった格好で額の上に薄紺色の遮光レンズのティアドロップをのせたラビュルトが、カクの驚いた様子を見て嬉しくて仕方なさそうな顔をした。
釣り道具と紙袋で両手が塞がったカクからキャップを取り上げてキュッと被ると、もうひとつ抱えた紙袋をカクに押し付ける。
「このお店、美味しいわよね。アンタなかなか鼻が利くんだ?」
大荷物を抱えさせられたカクから釣り道具を取り上げ、涼しげなレンズで目を覆い、ラビュルトは店とカクを見比べた。
「待て。この店はワシの行き付けじゃ。ここで飯を食うならワシがおごる。それがスジじゃ」
昨夜の約束を思い出し、カクが慌てる。
「ふうん?んー、まあ、それも悪くないけどさ」
空の魚籠を見下ろしてラビュルトはにんまりした。
「食べ損ねた魚をご馳走するってのはどう?いいとこ知ってるから。すっごく美味しいわよ?」
「魚か。ワシャ肉の方が好きじゃ」
カクの答えにラビュルトは妙な顔をする。
「じゃ、何だって釣りなんかしてるのよ?変なの」
「暇潰しじゃ」
「食べもしない魚を釣る訳?あんまり趣味よくないわね」
ラビュルトの鼻にキュッと皺が寄るのを見て、カクは憮然と言った。
「馬鹿言うな。釣れたら食うわい。しょうがないからの」
「ええ?アハハハ!」
ラビュルトが遠慮なく大笑いする。