第20章 砂漠の民
「私は王になんかならない!」
「……誰でも王になれるもんでもないわい」
渋い顔で漏らしたカクにボン·クレーと子供の目が向く。
カクは腕組みして息をついた。
「聞かんかった事にする。中に入れてくれんか。土産付きで聞きたい事があるんじゃ」
バケットの包みを見下ろして仏頂面する。
やれ、面倒事ばかりじゃわい。
「……聞きたい事?」
胡乱な顔で目を細めたボン·クレーに、カクはまた息をついてみせた。
「そいつに関しても聞かんかった事にするつもりでおる。お前さんに迷惑はかけん」
「……ふん?」
「ワシャ忘れ上手じゃ。必要ならば、何でも忘れる」
少なくとも、そう見せる事が出来る。完璧に。
「…入んなさいよ」
眉を上げたボン·クレーが赤ん坊を抱き直し、その目配せを受けた賢しげで生意気な子供は身を引いて道を開けた。
カクはキャップの庇を下ろすと、長い足を踏み出して部屋に入った。