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恋を謳うハリアー ~ワンピース、カク~

第20章 砂漠の民


「何!?何の用ッ!?アチシ忙しいのよッ!?」

ノックしたドアがドバンと開いて、髪をふり乱した馬面が顔を出す。

いきなり怒鳴りつけられても落ち着いたものだ。どうにも変わったヤツらしい事は昨日のうちに確認済みなのだからそうそう驚く気にならない。

が、それも彼ひとりならの話だ。

「…そら見りゃわかるわ…。何やっとんじゃ、お前さんは…」

片手に火がついたように泣く赤ん坊、片手に年の頃十二三の子供の襟首を引っ掴んだボン·クレーに、カクは目を瞬かせた。

「ホントに子連れとは驚いた。まさか部屋ン中に駱駝も居るんじゃなかろうな」

黒い瞳が賢しげな子供の肘をとって引き寄せ、ボン·クレーが両手で赤ん坊を抱けるようにしながら、呆れ顔をする。
この素っ頓狂なオカマなら、冗談でなくピンクの睫毛の駱駝を二頭、ホテルの客室に連れ込んでいそうで頭が痛くなって来る。

「あらン?やだ、何よアンタ、もうアチシが恋しくなっちゃったン?」

「お前さんは四六時中そんな事ばっかり言うとるんか。…難儀じゃのう」

ボン·クレーから目を移して小さな浅黒い顔を見る。造作の整った印象の強い顔立ちが赤ん坊と子供に共通している。

「馬鹿に綺麗な子らじゃ。兄妹か?」

「互いに素性も知れないのに、身の上を話したりしない」

顔に見合った賢しい声で子供がむくれ気味に答える。
カクは成る程と頷いてキャップをとった。

「そらそうじゃな。すまんかった。ワシャカクじゃ。お前さんらの名前を聞かせてくれるかのう」

「……」

子供は疑うように斜めからカクを見上げて眉をひそめた。

「…変な鼻…」

「おい馬面。一発殴らせい」

「ンなッ!?」

「馬鹿、冗談じゃ。コラ、チビ。人が名乗っとるのに随分じゃな?」

コツンと額を拳で押すと、黒い目がボン·クレーとカクを見比べた。

「…あなたはボン·クレーの友達?」

「違うな」

カクは真顔で答える。

「昨日会ったばかりじゃ。それじゃ友達にゃならん」

「なら友達になれそうな人?」

今度はボン·クレーだけを見て生真面目な浅黒い顔が問う。
見るも愛らしい赤ん坊に頬ずりしていたボン·クレーが顔をしかめた。

「アンタ王様になるんでしょ?何でも人に聞いてんじゃないわよぅ、メンドくさいわねン、もう!」

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