第19章 ふたり
ラビュルトの側、ベッドの端に動いたカクが、繋がった糸を切らないように用心して紅い絹地を慎重に手にとった。
「藤の花じゃな」
言われてラビュルトは意外そうに頷く。薄紫に濃い紫の差した花の房。
「わかる?へえ、驚いた。花好き?」
「樹に咲く花なら知らんでもない。ワシャ大工じゃったからな」
「大工。カッコいいじゃない。何で辞めちゃったの」
また違う絹糸を解いてラビュルトが真剣な顔で言う。
「一生続けられる自慢していい仕事なのに」
「誰にだってわざわざ言いたかない事はあるもんじゃろう?」
「そう来たか。ふふ、そうね。なら聞かないわ」
「大体何だって真面目に努めりゃ自慢していい立派な仕事じゃろう。大工に限った事じゃないわい」
「アタシの仕事も?」
また違う花を刺繍しながら、ラビュルトは顔を上げない。長い指先がリズミカルに動いて、絹地にたおやかな花が咲く。
「……」
カクは伏せて色を隠したラビュルトの目元を眺めた。淡い紅が、元は赤毛だっただろう事を思わせる長い睫毛。
「違うんか?」
ぽつりと聞き返したら、ラビュルトは優しく髪を揺らしてまた頷いた。
「違わないわよ。さあ出来た」
滑らかな紅いリボンに、桜と藤が映えている。
「ハニーの国の花よ。寂しいときに生まれた場所を懐かしめるように、ね」
「成る程な」
「いいでしょ?ワクワクするわね、プレゼントって。喜んでくれるといいけど」
「ワシにゃ女物のこたようわからんが、喜ぶと思うぞ。帽子にしろ、髪飾りにしろ、綺麗なモンじゃ。よう出来とる」
「ありがと。案外アンタにも似合うかもよ?つけてみる?」
「…何でそうなるんじゃ……」
「チャームポイントをよりチャー厶にしちゃったら?」
「また鼻の話かいな。全くお前さんといい、馬面オカマといい…」
「仕方がないのよ。そんだけアンタの鼻が可愛いってこと」
「……喜ばんぞ、ワシャ」
「喜んでよ、褒めてんだから」
「褒めて喜ばせたきゃ相手を嬉しがらせる話をせんか」
「ええ?だってアンタが自分でチャームポイントって言ったのよ?」
「……そういやそうじゃな。くそ、しまったのう」