第19章 ふたり
「ならアタシも聞いていい?ジュベはアンタのポケットに何を突っ込んだのかな?」
「ああ、見とったんか。あら昔馴染みからの手紙じゃ」
平然とカクは笑った。
自分を殴りたくなった。
「昔馴染み?」
スルスルと絹地に絹糸を通しながら、ラビュルトが薄く笑う。
「ジュベが持って来たんなら、相手は男かな。まあ相手は誰だっていいのよ。アタシが気になったのは、アンタの顔色が変わったこと」
「まさか男娼に言伝を頼むようなヤツとは思わんかったからのう。正直驚いた」
嘘はついていない。本当の事とも言えないが。
「誰にだってわざわざ言いたくない事はあるわよ」
瞬く間に紅い絹地に艷やかな蔓や葉を縫い現してラビュルトが笑った。大きな口が弧を描く。
「さっきの話は本当。アタシは捨て子よ。樽に詰めて海に流された筋金入りの捨て子。この町で拾われて、父さんと母さんの養女になったの。アタシ、家族の誰にも似てないでしょう?」
カクは腕を組んで首を傾げた。
「うん?…言われてみりゃそうかのう…?」
「あれ?言われてみなきゃわかんない?」
「そうじゃなぁ。ようわからんかったわい」
首を捻るカクの目を覗き込んで、ラビュルトは嬉しそうな顔をした。
「あはは、じゃ、言わなきゃ良かった。失敗」
緑の糸を切り、次は薄紫の糸の端を引いて肩をすくめる。
「何が失敗じゃ。言い辛い事を話したんじゃろうが。ここはワシがありがとうじゃ」
胡座をかいた格好のまま頭を下げたカクに、ラビュルトは絹地を膝に置いてニッコリした。
「ねえカク」
「うん?」
「アタシ、アンタが大好きよ?ちょっと困っちゃうくらいにね」
「そりゃ良かった。それに関しちゃワシもちっと困っとるからな。あいこならまだマシってもんじゃ」
「フフッ、アタシたち、バカみたい」
「全くじゃ」